■手塚治虫の現在
パネリスト/伊藤剛氏 [武蔵野美術大学非常勤講師]
        古徳稔 氏[手塚プロダクション出版局長]
        田中圭一氏 [マンガ家]
   座長/小野耕世氏 [東京工芸大学客員教授]


■伊藤剛氏
伊藤剛さんは『地底国の怪人』『低俗天使』を例にマンガとは記号を簡略化して、曖昧なままでもマンガ表現として成立し得るのだ、という持論を展開。『地底国の怪人』のラストシーン・耳男の臨終シーンで帽子をかぶり、鬘を被っている耳男を見て登場人物達は何故ウサギだと気付かないのか?「顔に毛が生えてるやん」というツッコミを誰もしない(笑)。つまり、ここで目鼻口という簡略化されたマンガ記号が、ウサギか人間かわからなくなるシチュエーションに際しても曖昧なまま、表現として成立しうる。マンガは実はそういった曖昧なままの存在を描きえる表現手段なのではと。このことに対するもうひとつの例が『低俗天使』で、ここに登場する未来から来たルンペ少女ジュジュは、裸か裸でないかよくわからない服装をしている。こういった曖昧なままの表現で(服を表すマンガ記号、線をきっちり引かないまま)70年代に描ききったのは手塚治虫ぐらいなのでは。絵画から線を簡略化していったものがマンガと言われているが、本当はむしろ逆なのではないか。なぜなら手塚はマンガ記号を簡略化しても成立し得るマンガを描いているが、昨今のマンガは、描き込まないとマンガ表現にならないのだから。

余談ながら、伊藤さんはマンガ記号を簡略化する例として『マンガの描き方』を図版として指定。図版に出された「お母さんが描くマンガ」があまりにも手塚タッチとはかけ離れた絵だったため、伊藤さんは古徳さんに「これは、手塚先生本人が描かれたものですか?」答える古徳さんは一瞬沈黙。「先生のじゃないですか?ね、森ちゃん?」と来場していた森晴路資料室長に壇上から聞き、森さんはさらに一瞬沈黙の後に「手塚先生本人の絵だと思います。」森さんでも判断に迷う絵ってあるんだ~!

■田中圭一氏
何が面白かったって、手塚プロ出版局長の古徳稔さんと、『神罰』で話題になった田中圭一さんが隣同士に並んでディスカッションをしていたことです。この人選だけで喋る前からくすくす笑いが漏れ、対談が始まると会場中爆笑の渦。田中さんは「古徳さんの前では言いにくいんですが…」をしきりに連発しながら、裏話を披露。また、手塚漫画がディズニータッチの目鼻というマンガ記号にどのあたりが似ていてどのあたりが違うのかを実際に描いて検証。手塚キャラはディズニーの模倣といわれているけれども、実際はちゃんと和風に、日本人向けに咀嚼して描かれたものだということを、田中さんが描いて実証していくくだりなど、手塚絵を自分の絵として取得されている田中さんならではで、さすがと感心しました。

■古徳稔氏
古徳さんが公開の場でパネリストとして喋られるのを聞いたのは初めてなのですが、その発言の端々から、長年拘わってきた手塚漫画への思いが感じられました。例えば手塚プロ出版局長として手塚治虫をベースとしたトリビュート作品やコラボ作品を扱ったりするわけですが、「今の若いファン層に受け入れてもらうにはこういったものも必要だと思います。でも、王道手塚作品の世界も大事にしたい。」と。昨今の手塚プロを見ていると、コラボやトリビュートが多くて王道手塚ファンにはあまり嬉しくない。今の手塚界と自分が愛する手塚界との温度差を感じるばかりなのですが、古徳さんも同じ気持ちなんだ、決して王道を忘れているわけではないんだな、と改めて古徳さんの姿勢に感じ入りました。ちなみに賛否両論の否ばかりの意見が目立つ、「なかよし」連載中花森ぴんく版の『サファイヤ リボンの騎士』ですが、これ以前に原作『リボンの騎士』のアニメ化企画があったそうです。でも女の子向けの玩具が売れないからとスポンサーがつかずにボツ企画に。やっぱり今の手塚界を取り巻いているのが大人の事情ばかりで、王道手塚ファンは寂しい限りですが…。

さらに古徳さんの王道手塚ワールドへの思いが感じられた発言が、会の終盤、小野さんからの質問。
「北斗の拳など他の漫画作品でパチンコになっている作品がある。パチンコって莫大な利益らしいのですが、そういった話は来ますか?」
「話は山ほど来ています。全キャラを使って50億とか(会場どよめき)。ですが、社の方針としてギャンブル、酒、タバコ、政治、原子力には手塚治虫は拘わらない。ただ、手塚キャラはスターシステムであり、手塚プロはキャラクターひとりひとりのタレント事務所だと思っている。その意味では個人的にはB級キャラならいいかな、という気はしないでもありませんが。」

この古徳さんの手塚プロダクション=手塚キャラのタレント事務所という概念には目から鱗。こういった手塚漫画の世界観を大事にしている人がいることこそが、「手塚治虫の現在」を支えることに繋がると思いました。

やっぱり松山まで行ってよかった!話を聞いてよかった!こんな時間を共有できる幸せを感じた松山の旅でした。
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